魅力的なITプロジェクトから、ベンチャーの今を届けるメディア

グッドデザイン金賞も受賞!教育の未来をつくるソニー発EdTechスタートアップ

こんにちは、ライターのJohnです。

 

皆さん、かの有名な大企業ソニーがイノベーティブな事業の創出や社内ベンチャー立ち上げに力を入れているのはご存知だろうか?

1988年に設立されたソニーコンピュータサイエンス研究所(以下Sony CSL)では、ヒューマンインタラクションやスマートエナジーを始めとする様々な分野で中長期的に研究が推進されている。近年だと2014年4月にスタートした、新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(以下SAP)」が提供する、IoTデバイス事業コンセプトを応援するクラウドファンディングプラットフォーム「First Flight」などが盛り上がりを見せている。当メディアで以前紹介した三日坊主防止アプリ「みんチャレ」をスタートさせた長坂CEOも、実はこのSAP出身の方なのだ。

 

当メディアでは、EdTech系プロジェクトでグッドデザイン金賞やeラーニングアワード EdTech部門賞を受賞しているプロジェクトたちを推進する新たなソニー系ベンチャーがあることを知った。

今回は、ソニーグループのベンチャーとして独立したSony Global Educationに、EdTech系ベンチャーとしてのビジョンとそれらを体現するプロジェクト群のことについて伺ってきた。

目次

・Sony Global Educationという会社について

・算数のオンライン世界大会「世界算数」

・論理思考力と空間認識力を同時に育成するデジタル教材「STEM101 Think」

・ロボット・プログラミング学習キット「KOOV」

・おわりに

(読了4分)※ インタビュイーの肩書きは取材当時のものです。

Sony Global Educationという会社について

プロダクト&デベロップメント部 サービス事業統括

池長 慶彦(Ikenaga Yoshihiko)

2006年度上期 IPA未踏スーパークリエータ認定。2007年早稲田大学大学院理工学研究科修了。ソニーのR&D 部門にてWiFi Directなど無線ネットワークの開発に携わる。その後、ソニーコンピュータサイエンス研究所に移り世界算数のサービスの立ち上げ、ソニー・グローバルエデュケーションの会社設立に携わる。現在は、KOOVを中心にソニー・グローバルエデュケーションのサービス開発に勤しんでいる。

担当商品・サービス:KOOV、Global Math Challenge(世界算数)

 

―Sony Global Educationとはどんなベンチャーなのでしょうか?

池長 誰もが簡単に教育を受けられる教育インフラを創ることを目的に立ち上がった企業です。そもそも教育の最大のミッションとは、その時代に合う社会で活躍できる人材を育てること。例えば工業化社会のときの作業員は、流れてくるものに対しちゃんと組み立てていく正確性だったり、作業に対する忍耐力や体力、組立作業そのものの知識などが求められ、教育もそれに見合ったものがなされていたと思います。今後はどんどんIT化、AI化が進み、人間に求められる能力も教育する内容も変わっていくと考えています。

今後人間に必要となる能力はなんだろうと考えると、創造性や問題解決能力、協調性など、AIには実現が難しい能力になると思うんですね。そんな能力を養うためにはどうすればいいのか、教育をゼロから再定義して最適化していくことが必要でそれを会社のミッションとしています。我々は「300年先の未来をつくる」をビジョンとして掲げ、活動しています。

 

―Sony Global Educationの立ち上げ経緯を教えてください。

池長 弊社の代表である礒津政明が、ソニーのR&D 部門にいるときに、教育で新しい事業を興さないかと会社に提案したことから始まりました。当時提案した事業が現在推進しているプロダクトの前身となるもので、インキュベートするためにSony CSLでのスタートを切りました。CSLでの成長もあり、ユーザーも集まり始めたので法人化し、2015年4月にSony Global Educationとして設立しました。

 

プロダクト&デベロップメント部 シニアソフトウェアエンジニア

高江 信次(Takae Shinji)

2008年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了。ソニーのR&D 部門にてWi-FiやLTEなどの無線ネットワークソフトウェアの研究開発に従事。
その後ソニーコンピュータサイエンス研究所に移り、世界算数のサービス立ち上げを経てソニー・グローバルエデュケーションの設立に創業メンバーとして参画。現在は日本および中国向けの思考力育成サービスの開発・運営に携わっている。

担当商品・サービス:STEM101 Think

 

―Sony CSLとはどのような組織なのですか?

高江 Sony CSLには大きく2つの性質があります。1つは直近のビジネス展開を目指すものではなく、研究自体が20~30年先を見据えた基礎研究を行っています。そこでは、茂木健一郎さんなどの方々がリサーチャーとして在籍しています。リサーチャーとは別の組織体としてNetwork Serviceプロジェクトがありまして、そこでは直近で世の中にインパクトを与える術を模索しています。我々はそこの所属で、事業のインキュベートに勤しんでいました。

Sony CSLの基本的な研究スタンスは、”世の中を変える” なのですが、リサーチャーは何十年もの時間を視野にいれて研究を行うのに対し、Network Serviceプロジェクトでは、短期間でそれを成し得ようとする2つの性質をもつ組織です。

 

算数のオンライン世界大会「世界算数」

世界算数」とは、算数オリンピック委員会監修のもと、作成される「思考力」を試す問題を出題するオンライン大会だ。

様々な国からの参加者と共に、共通の「思考力」を試す問題を解き、自身の世界ランキングをチェックすることが可能だ。

小学生の各学年に対応するコースと、大人向けコースを提供。また、個人、団体両方での大会エントリーが可能なので、塾や学校などで法人としての参加も行える。

*2015年に第12回日本eラーニングアワード EdTech部門賞を受賞

「世界算数」例題

 

―改めて「世界算数」の概要をお聞かせください。

池長 大会参加者の思考力を評価するサービスとして「世界算数」は生まれました。現在、第4回まで開催したのですが、85ヵ国から合計27万人の参加者がいるサービスです。

コンテンツですが、算数オリンピック委員会の方に問題の監修として携わって頂いています。また、以前算数オリンピック委員会で問題製作していた者が、現在弊社に参画し共に問題製作もしています。

小学生向けに学年別に分けた受験コースと、中学生から大人までの参加を想定したオープンコースの用意があります。さらにマスターコースもあって、これはかなり難しく作られています。ぜひ大人の皆さんにも挑戦して頂きたいです。

 

―「世界算数」の最大の特徴は何でしょう?

池長 「世界算数」は、オンライン受験なので紙の試験とは違った視点で結果を分析できるのが一つ大きな特徴です。例えば、問題を解いた順番や一問に費やした時間などのログが残るようになっています。

「世界算数」自身と成績上位者の解答時間の推移

 

池長 青線が成績上位者の解答時間の推移でオレンジ線が参加者自身の推移になります。成績上位者と自分がどの問題にどれだけ時間をかけ、どのように解いているのかを比較できるようになっています。このように紙媒体の試験では出来ないような分析方法を提供しています。

あとは、様々な切り口から自分の順位が把握できるところがもう一つ特徴ですね。世界順位や言語別順位(現在は日本語、英語、中国語)、都道府県内の順位、年齢別など多様な視点から自分の順位を測ることができます。

「世界算数」総合成績と各順位

セールス&マーケティング部 セールスディレクター

宮原 史明(Miyahara Fumiaki)

2001年早稲田大学政治経済学部卒後、金融機関に入社。2007年ソニーに入社。電子マネーサービスの米国導入、デジタルシネマの欧州ビジネスなど新商品、サービスの立上げに携わる。2015年ソニー・グローバルエデュケーションに初のセールスマーケティング担当として移り、現在は教育機関とのアライアンスも担当。

 

―85ヵ国から27万人の参加者がいるとの話がありましたが、「世界算数」のローンチは初めからグローバル展開を考えていたのでしょうか?

宮原 そうですね、最初から世界での開催を目的としていました。例えば国語だと、日本と中国では異なるので同じ問題では競い合うことができないのですが、「思考力」に関しては世界共通の能力なので、そもそもローカライズという概念がないのです。「世界算数」は、共通の項目で世界中の人と競い合えるというコンセプトを元に開発されています。

 

―グローバル展開するとき何か特別なPR活動はされましたか?

宮原 基本的にはWeb・SNSプロモーションでリーチしていて、国ごとの特別なPRは行っていません。2016年11月開催の第4回大会では、米国で1,000を超える学校にご登録いただいて、びっくりでもあり嬉しかったですね。現地で広告を出していた訳ではないので、Webから集まっている、もしくは先生方の口コミで広まったのだと思われます。

 

論理思考力と空間認識力を同時に育成するデジタル教材「STEM101 Think」

STEM101 Think」とは、問題解決に必要となる論理的思考力と空間認識力を育成するためのデジタル教材だ。

「世界算数」の問題同様、5つの思考回路に基づいて作成された問題を、学校や塾などの法人が生徒に対し通年利用できるようにした教材となっている。

 

―改めて「STEM101 Think」の概要をお聞かせください。

高江 「世界算数」は参加機会が限られますため、ならば通年で使える教材を用意しようということで、「世界算数」で問われる問題解決能力を養うためのツールとして「STEM101 Think」が始まりました。

「世界算数」と同様、カテゴリーとしては算数なのですが、指導要領に乗っ取った算数というよりは、あくまで論理的思考力・空間認識力などの「思考力」を養うためのコンテンツになっています。

「STEM101 Think」例題

高江 知識がないと解けない問題は最小限にし、見てちゃんと考えれば解けるようなものをなるべく取り入れています。

こういった問題と普段接する機会は現在の教育では少なく、「世界算数」に参加いただいた方々に、普段の授業で利用したいという声が多かったので、「世界算数」のエッセンスは外さないで日常的に利用できるようにしたプロダクトが「STEM101 Think」です。

 

―「STEM101 Think」も「世界算数」同様、グローバルに展開されているのでしょうか?

宮原 現在は中国と日本のみの展開です。最初のリリースは中国向けに行い、その後日本でもリリースと順序としてはまず海外からでした。理由としては、「世界算数」での中国からの参加者が多かったからです。思考力を養う教育に関してきっと中国では特に関心が高いんでしょうね。ですので、国内よりも先に中国にリリースしてみて、「STEM101 Think」に対するユーザーの反応を見たかった意図もあります。

 

―中国はどれぐらいの利用者がいるのでしょうか?

宮原 実は中国では現地のEdTech企業とのアライアンスで、BtoCに展開していまして、ユーザー数が80万ほどいるサービスになります。

 

ロボット・プログラミング学習キット「KOOV」

KOOV」とは、自由に遊んで直感的に学べるロボット・プログラミング学習キットである。

複数のブロックとモーターなどの電子パーツを自由に組み合わせ、組み立てたものをプログラミングで動かすことを体験できるものだ。

*2016年グッドデザイン金賞受賞

 

―「KOOV」の特徴は何でしょう?

池長 「KOOV」のコンセプトは “一人で学べるプログラミング学習キット” になります。子供が一からプログラミングを楽しく学んでいける学習プランと機能を盛り込んでいます。

学習プランは、

①ブロックと電子パーツ組み立て、プログラミング方法を模倣しながら学習する「ロボットレシピ」

 

②ミッションをクリアしながら体系的にロボットプログラミング学習を進められる「学習コース」

 

③自分のアイデアで組み立て、プログラミングする「自由制作」

 

池長 プログラミング部は、「ビジュアルプログラミング」のScratchをベースにしたソニー独自のプログラミング言語を採用しています。プログラミングというと、一般の方には取っつきにくいイメージがあると思いますが、「KOOV」のプログラミング画面は、子供が簡単に始められるコンセプトのもと設計されています。画面をカラフルに分類することで直感的に分かりやすくしているのが「KOOV」の特徴です。

「KOOV」ビジュアルプログラミング画面

おわりに

2020年度へ向けた、小学校でのプログラミング教育必修化と大学入試改革が発表されたことにより、現在日本の教育現場は少しずつ対応を始めている。

“小学校では、ソースコードに触れる子供たちの光景があり、大学入試で問われるものは、従来の知識を問う問題形式から、決まった正解がなく論理性や思考力を求められる問題形式へと変化していくだろう” と高江氏は最後に語った。もし、予想通りの変化が日本の教育に表れたとしたら、「300年先の未来をつくる」もSony Global Educationにとっては大きすぎるビジョンではなさそうだ。

子供たちが学校で「KOOV」を使いプログラミングを勉強し、塾では「STEM101 Think」の問題で思考力を養い、「世界算数」で自分の実力を世界基準で測る。こんな光景を見る日はそう遠くないのかもしれない。

 

株式会社ソニー・グローバルエデュケーション

HP:https://www.sonyged.com/ja/

Facebook:https://www.facebook.com/sonyglobaledu/

Twitter:https://twitter.com/sonyglobaledu

Instagram:https://www.instagram.com/sonyglobaledu/

来たるべき社会の教育インフラを創造する

物事がグローバルな基準で動いている世の中において、教育は国や地域で細分化・最適化された数少ない分野となって残っています。インターネットが世界の末端まで普及していく中で、国や地域ごとに特色のある教育に加え、STEM教育※のようにグローバルに統一された教育もまた一つの大きな流れとなって、生活に浸透してきています。

誰もが簡単に教育を受けられるように、誰もが競い合い、学び合えるように、アプリやサービスの枠を超えた新しい教育インフラを創り上げることが我々のミッションです。

※Science, Technology, Engineering, Mathematics の略